「新しいことへのチャレンジ」という共通のマインドから生まれた、新時代のEVバスサブスクリプションサービス「九電でんきバスサービス」
九州電力株式会社様
コーポレート戦略部門インキュベーションラボ
プロジェクトマネージャー
鶴岡良一様
業種:電気・ガス業
導入サービス:EVバス
導入目的・効果:EV化、脱炭素、BCP対策、地方創生
電力の安定供給はもちろん、都市開発やICTサービスなど、様々な側面から人々の生活を支え続けてきた九州電力株式会社。同社は2024年5月、カーボンニュートラルの実現に向けた新しい取り組みとしてEVバスサブスクリプションサービス「九電でんきバスサービス」を芙蓉リースグループとの連名で発表しました。芙蓉リースグループとしても、九州エリアの電力供給を一手に担う九州電力との協業は画期的な取り組みです。本サービスが誕生した背景や経緯、今後の展望などを同社コーポレート戦略部門インキュベーションラボのプロジェクトマネージャーである鶴岡良一様に伺いました。
EVバス導入をトータルサポート!EVバスサブスクリプションサービス「九電でんきバスサービス」誕生の背景とは
「九電でんきバスサービス」がどのようなサービスか教えていただけますか?
( 鶴岡様 )
本サービスは九州電力と芙蓉リースグループ両社の知見を掛け合わせて生まれた、自治体・民間企業向けのEVバスサブスクリプションサービスです。各種送迎バスやコミュニティバスなどを保有・運行する自治体や民間企業に対し、EVバスや充放電器などの設備のみならず、導入コンサルティングやエネルギーマネジメントなどのソリューションをパッケージ化し、定額制で提供するという、これまでにないサービス内容が特長です。
本サービスが誕生した背景について教えてください。
( 鶴岡様 )
本サービス誕生の背景には、九州電力が掲げている「地球環境のための脱炭素」「カーボンニュートラル化」という使命があります。カーボンニュートラル実現に向けて、九州電力では「電源の低・脱炭素化」と「電化の推進」という2つの側面から様々な取り組みを行なっています。その中でも「電化の推進」の分野において、車両のEV化は大きなミッションの1つでした。再生可能エネルギーとEVを活用し、何か新たな取り組みができないかと考えていました。
乗用車タイプのEVは徐々に普及が進んできましたが、バス・トラックなどの商用車はまだまだ普及が進んでいないのが現状です。そこで、商用車のEV化をどのように進めていけばよいのか、それを通じてカーボンニュートラルにどのように貢献していけるのかということを4年程前から考え始めたのが、このプロジェクトの原点です。
本サービスは様々なサービスがパッケージ化されたサブスクリプションサービスだという点がポイントですが、EVバスの提供のみならず、この様なサービス設計にした理由をお聞かせいただけますか?
( 鶴岡様 )
乗用車タイプのEVの場合は、街中に設置されている公共のEV充電器だけでなく、自宅でも充電できます。しかし、EVバスの場合、乗用車タイプのEVと同様の運用をすることは現時点では難しい状況にあります。EVバスの導入にあたり、専用のEV充電器を自社施設に設置する必要がありますが、手配に大きな手間や労力、コストがかかってしまいます。場合によっては電力契約の見直しや追加設備が必要になることもあります。EVバスの導入はまだまだハードルが高いというのが現状です。
そこで、EVバスの導入に必要なものすべてをパッケージ化し、さらに定額料金で使うことができる仕組みを作れば、EVバス導入のハードルを下げられるのではないかと考えました。
まだEVバスが普及していない現状では、どのくらいの時間で充電できるのか、充電にかかるコストがどれくらいかなども分からないお客様が多いと思います。EVバスの導入にあたってお客様が分からない部分や手間・労力がかかる部分のフォローも含めて1つのパッケージで提供することで、企業や自治体が導入し易くしたい、より使い易くしたいと考えました。
九州電力のアイデアと芙蓉オートリースの柔軟な対応で生まれた、前例のないEVバスビジネスモデル
本サービスのパートナーとして芙蓉オートリースをお選びになった理由を教えていただけますか?
( 鶴岡様 )
お客様にEVバスを定額で使っていただくためには、リースという仕組みを活用してEVバスを調達する必要があると考えました。私たちがEVバスを直接購入してお客様向けにリースする案もありましたが、自社で行なうにはリースのノウハウがありません。検討を重ねた結果、やはりEVバスの調達部分はオートリースの専門会社にお願いするべきだとなりました。3年程前から既存取引先をはじめとする様々なリース会社に話を聞いていたのですが、なかなか私たちの理想を実現できるパートナーには出会えませんでした。そうした状況のなか、2022年6月に社内の別チームからの紹介で意見交換をすることになったのが芙蓉オートリースでした。
当時、芙蓉オートリースは「EV導入ワンストップサービス」など、モビリティ分野における新しい取り組みをすでにスタートしていました。そこも惹かれた理由の1つでしたが、決め手となったのは、私たちが思い描いているビジネスモデルに対し、リース会社の枠組みを超えて施策を考えていただけたことです。私たちのリクエストに対する柔軟な対応や提案から「目指すところが一緒」だと感じることができ、手を組むことに決めました。
芙蓉オートリースからの提案で特に魅力的だったことをお聞かせください。
( 鶴岡様 )
私たちにとって、特に「契約期間」についての提案が魅力的でした。
高額で長期間使用するEV バスは、8年程度のリース期間を設定することが一般的です。しかし、私たちは、1~5年の短期で使っていただくビジネスモデルを考えていました。
短期契約にした理由は、EVバス市場は車両ラインアップが限られているからです。EVバス自体の選択肢が限られている現状では、お客様にとって理想的な車種か分からないにもかかわらず、長期契約でEVバスを導入するのはリスクが高いのではないかと思っていました。本当にこのEVバスが5~10年使えるのか、すぐにもっとよい新型車両が発売されるのではないかなど、不安も多いはずです。それらの不安を短期契約のビジネスモデルにすることで解消したいと考えました。
EVバスという新しい商材において、当時、芙蓉オートリースにはそうした短期契約のスキームがなかったそうです。それにもかかわらず、私たちとのこの取り組みについて「新しいことへのチャレンジを最大限実現しよう」というマインドで柔軟に対応していただけたのはありがたいことでした。
本サービスのリリースに向けて課題となったことを教えていただけますか?
( 鶴岡様 )
新しいサービスということもあり、芙蓉オートリースと2週間に1度のペースでミーティングを行ないました。ミーティングでは、サービス価格設定や補助金に関することなど、都度問題点を洗い出し、話し合いを繰り返していきました。私たちはビジネスモデルに関するプランは持っていましたが、車やリースについては素人です。EVバスを導入するだけでも道路運送車両法などの法律が複雑に絡んできますし、私たちだけでは成り立たなかったと思います。
サービス価格の設定は簡単には決められず、非常に大きな悩みでした。EVバスにも小型・大型があり、当然ながら金額も違います。同じEV充電器を導入しようとしても、設置する場所や施設の状況によって工事費用が大幅に変わります。EVバスの使い方によってメンテナンス費用として見込まなければいけないコストも変わってきます。値決めについては、そうした懸念点を踏まえて何度も議論を行ないました。2年前に始まったプロジェクトではありますが、約1年はこの議論に費やしたのではないかと思います。
補助金の活用についても検討し、芙蓉オートリースに相談していました。しかし、私たちの短期型ビジネスモデルでは補助金の申請基準に合わず、やむを得ず断念することになりました。それでも、私たちの要望や期待に対して前向きに相談に乗っていただき、専門的な視点からアドバイスをいただけたことは、非常にありがたかったと感じています。
サービス導入第1号の舞台は、沖永良部島。「離島」で感じたカーボンニュートラルへの確かな手ごたえ
2024年4月に本サービスの第1号案件が鹿児島県知名町・沖永良部島で開始されましたが、開始に至るまでの経緯をお聞かせください。
( 鶴岡様 )
九州電力はグループ会社も多く、幅広いエリアでのつながりがあります。今回のサービス導入は、ちょうどこのビジネスモデルができ上がった時期に、鹿児島のグループ会社から「沖永良部島が脱炭素に取り組んでいて、EVバスを検討している」という話を聞いたことがきっかけです。
沖永良部島は、2022年4月に環境省の脱炭素先行地域に選定され、「ゼロカーボンアイランドおきのえらぶ」として様々な事業を展開している地域です。知名町は、沖永良部島を「再生可能エネルギーを活用した島にしたい」と考えており、町役場に太陽光発電システムを設置し、夜に蓄電するにはどんな蓄電池設備がいるのかなど、様々な検討をされていました。その中でEVバスを活用するのはどうかという話になり、本サービスをご提案させていただくことになりました。
本サービスでは、EVバスやEV充電器の導入、再生可能エネルギーの活用、エネルギーマネジメントまで、EVバスの導入に必要なものや必要なことがすべておまかせで揃います。加えて、それらが定額制で利用できることにメリットを感じていただけたのではないかと思います。また、私たち九州電力と芙蓉リースグループにおけるモビリティ分野のプロである芙蓉オートリースが手掛けるサービスのため、「安心感がある」というのも導入の決め手になったのではないでしょうか。
沖永良部島では本サービスをどのように活用されているか教えてください。
( 鶴岡様 )
小型EVバスをはじめ、充放電設備やエネルギーマネジメントに関わる通信制御装置などを導入いただきました。EVバスは、知名町が経営するホテルと島の空港や港とをつなぐ送迎バスとして1日約3往復運行されています。サービス導入後、乗客からは「静かで乗り心地がよい」ドライバーからは「運転し易い」という嬉しい声もいただいています。将来的には、ホテル宿泊客送迎のほか、ホテル周辺に住む島民の日常における移動手段としての活用も想定されているそうです。
沖永良部島の案件で得られたことを教えていただけますか?
( 鶴岡様 )
実は、当初、離島への本サービス導入はあまり考えていませんでした。
本サービスの主なターゲット層は脱炭素に熱心な大手バス会社や自治体と想定しており、実際にそうしたお客様から多く関心を寄せていただいています。しかし、今回の沖永良部島の案件で、離島は本サービスが適合し易い条件が多く揃っていることに気が付きました。離島では、島内の日常生活を支える交通手段としてコミュニティバスが運行されていることが多く、EVバスに対する潜在的なニーズが見込めます。また、電力供給エリアが島内に限られるので電力消費量が把握し易く、発電された再生可能エネルギーのマネジメントやコントロールもし易いという特長があります。日本全国にある有人離島のうち40%弱が九州に存在しているという事実からも、本サービスのような脱炭素の取り組みが受け入れられるポテンシャルは非常に大きいと感じています。
EVバスの多角的な活用提案とサービスのイノベーションにより、お客様に選ばれ続けるサービスに
本サービスについて、今後の展望を教えてください。
( 鶴岡様 )
EVバスを単に使っていただくだけでは、私たちの掲げる本来のミッションを達成することはできません。これからはEVバスを多目的に使っていただけるよう働きかけていくことも重要だと考えています。たとえば、太陽光パネルや小水力発電で発電した再生可能エネルギーを蓄える蓄電池の代わりとしてEVバスを導入していただく、台風被害などへのBCP対策としてEVバスの大きなバッテリーを施設や建物の非常用電源に活用していただくなど、様々な活用方法をお客様へ広くご提案していきたいと思います。そして、ゆくゆくはこのサービスを通じて再生可能エネルギーの効率的な利用を推進していくことにつなげていきたいと考えています。
また、EVバスの共同利用に向けた検討も継続していきたいと思います。平日はスクールバスや企業の送迎バスとして利用しながら休日は地域観光を目的に運行するなど、地域内でEVバスをシェアリングできるような仕組みを考えています。法律が絡む課題もあるため簡単にはいかないと思いますが、実現に向けて着々と取り組んでまいります。
今はまだ類似サービスも少なく、九州電力の知名度が高いこともあって「九州電力が行なっているサービス」としてお客様に選んでいただいている部分も大きいと感じています。今後、様々な企業から類似のサービスが提供される状況になると思いますが、それでも私たちのサービスを選び続けていただけるよう、よりよいものに改善し続けていきたいと思います。これからも新たなサービスや差別化商品を芙蓉オートリースとともに作っていけることを楽しみにしています。